お子さまの高校進学を考える際、「通信制高校」という選択肢を耳にされたことはありませんか。通信制高校は、全日制・定時制とは異なり、自宅学習を中心に自由度の高い学び方ができる学校です。近年は少子化の中でも生徒数が増えており、不登校や中退者の再進学だけでなく、専門的な活動と両立したいお子さまにも選ばれています。
本コラムでは、保護者の方が知っておくべき通信制高校の基礎知識や学習の進め方、メリット・デメリット、卒業後の進路などを網羅的にご紹介します。お子さまに合った学習環境を見つけるための参考になれば幸いです。
通信制高校とは何か?基本の仕組みと特徴
通信制高校の定義(全日制・定時制との位置づけ)
通信制高校とは、法律上「通信による教育を行う課程」とされる高校です。教育課程としては全日制や定時制と同等に「高等学校卒業資格」を取得できますが、日々教室で授業を受ける全日制や、夜間などに通う定時制とは違い、自宅学習やレポート学習が中心。週に1回や月に数日など、学校へ登校する回数(スクーリング)が少ないという特徴があります。
通信制高校が生まれた背景と現在の状況
通信制は元々、働きながら学ぶ方々など「毎日学校に行けない人」のための仕組みとして設置されました。ところが近年は、中学生のうちから「集団生活に不安がある」「自分のペースで学びたい」「専門活動を両立したい」など、さまざまな理由で通信制高校を選ぶお子さまが増えています。
少子化の中でも通信制高校の新設校は増加傾向にあり、全国の広域通信制高校だけでなく、各地域の公立通信制高校でもコースを充実させる動きが活発化。自由度の高い学びを重視する流れが加速しています。
通信制高校と全日制・定時制高校の違い
登校日数・通学スタイルの違い
- 全日制…平日5日間登校が基本
- 定時制…夜間や週数日などで授業を受ける
- 通信制…レポート学習+スクーリング(年数回~週数回など学校ごとに異なる)
通信制高校は、学校によって「週5日通うコース」から「年に数日だけ集中登校するコース」まで、登校頻度が幅広いです。必要なスクーリング日数を満たせば卒業要件をクリアできるため、毎日通わなくても卒業可能です。
学習形態の違い(授業形態と自主学習)
通信制高校では、先生が直接講義を行う「授業」だけでなく、自宅での教材学習(レポート提出)がカリキュラムの大部分を占めます。多くの場合は教科書やプリント教材で学び、レポートを郵送またはオンラインで提出し、添削指導を受ける仕組みです。
全日制や定時制のように「校内で毎日授業を受ける」ことを基本とせず、あくまで自学自習が中心となります。
学年制と単位制の違い
- 全日制・定時制に多い: 学年制(1年間の取得単位不足で留年)
- 通信制に多い: 単位制(単位を積み上げて卒業へ)
単位制の場合、一度習得した単位が蓄積されるため、科目ごとに履修ペースを調整できるメリットがあります。留年がなく、自分のペースで卒業を目指せる一方、「自力で計画し、着実に単位を取る必要がある」という面もあります。
在籍期間の違い
全日制・定時制ともに標準修業年限は3年ですが、通信制高校の場合も最低3年は在籍する必要があります。ただし3年以上かけて4年、5年とじっくり卒業する方も珍しくありません。自分の都合に合わせて学習期間を柔軟に延長できる点が通信制の大きな特徴です。
学校生活・人間関係の違い
通信制高校は普段、クラスメートと毎日顔を合わせる機会が少なく、人間関係のトラブルが起こりにくい一方で、友人同士の交流が少なく「寂しい」と感じる面もあります。ただし、週1日通学コースやイベント・部活動がある学校もあり、仲間と協力して学校生活を楽しめるケースも増えています。
年齢層が幅広いことも特徴の一つ。中学卒業直後の生徒だけでなく、社会人や年長者まで在籍している学校もあり、多様な人との出会いがある環境です。
通信制高校の仕組みと勉強内容
レポート提出 – 自宅学習の中心
通信制高校では、科目ごとの学習内容をレポート(課題)として提出し、先生の添削を受けます。問題集や穴埋め式のプリントなど形式はさまざまですが、一定の期限までに提出しないと単位取得に支障が出ます。
最近はオンライン学習システムを導入している学校が多く、ウェブ上で動画授業を見たり、課題をアップロードしたりするところもあります。レポートの難易度自体は基礎レベルが中心ですが、計画的に進める自主学習がカギとなります。
スクーリング – 登校して受ける授業
「スクーリング(面接指導)」は、自宅学習だけではカバーしきれない実験・実習科目、グループワークや体育などを先生のもとで行う大切な時間。年に数回、または週に数日など学校によって回数や形式は異なります。
普段は自宅学習が多い通信制の生徒も、このスクーリングで先生や友人と交流し、学習の疑問を直接相談する機会を得られます。
テスト(単位認定試験)
レポートをしっかり提出し終えると、年1回~2回程度「単位認定試験」が行われます。試験内容はレポート課題の延長線上にあるため、日常的に学習していれば合格が難しいレベルではありません。合格すればその科目の単位が認定されます。
特別活動
通信制高校でも、学校行事(文化祭・体育祭・遠足など)が特別活動として設定されている場合があります。参加時間は全日制ほど多くはありませんが、卒業要件として決められた時間(30単位時間程度)を満たす必要があります。スクーリング時のホームルームやクラブ活動が特別活動にカウントされることもあります。
通信制高校の種類・学校の選び方
公立と私立、広域と狭域
通信制高校には、大きく分けて「公立」と「私立」の区分があり、さらに募集地域によって「狭域通信制(都道府県内の生徒対象)」と「広域通信制(3つ以上の都道府県から入学を受け付ける)」に分かれます。
- 公立通信制: 学費が安い、年間のスクーリング日程が固定されがち
- 私立通信制: 学費が高めだが、コースが多彩・柔軟
お子さまの生活スタイルや目標に合ったカリキュラムがあるかどうか、進学実績やサポート内容を含めて比較検討するとよいでしょう。
単位制高校と学年制高校
ほとんどの通信制高校は単位制を採用していますが、一部に定時制と併設されており学年制のまま運営されている学校も存在します。単位制のメリットは、留年がないぶん自分のペースで履修を続けられる点。学年制の場合は一括進級なので、途中で落とす科目が多いと留年してしまう可能性があります。
サポート校とは?
「サポート校」は正式な高等学校ではなく、通信制高校に在籍する生徒の学習や生活を補う民間の教育機関(塾や予備校のような存在)です。
- 個別指導や集団授業など、学習リズムをサポート
- 高校生活や人間関係の悩みを相談できる体制を整備
- 週5日登校など柔軟なスタイルを提供
サポート校へ通うには、通信制高校の学費とは別に授業料がかかることが多いですが、途中で挫折しないための心強い味方になる場合もあります。
学校ごとの特色
通信制高校によっては、
- ネット学習コース: パソコンやスマホで教材を閲覧し、ほとんど通学しない
- 週5日通学コース: ほぼ全日制のように通いながら学ぶ
- 専門コース: 美容・芸能・IT・スポーツなどを学べる
など多様なプログラムを用意しています。特定の専門技術や興味分野がある場合には、各学校のカリキュラムを比較して、お子さまの興味・適性に合うかを確認しましょう。
通信制高校のメリット(通信制を選ぶ利点)
自分のペースで学べる柔軟性
通信制高校の最大のメリットは、何と言っても時間の自由度が高いこと。レポート提出やスクーリングのスケジュールはある程度決まっていますが、通学日数が少なく、勉強時間も自分でコントロールできます。
- 体調面やメンタル面で無理をしたくない
- 朝が苦手で決まった時間に登校が厳しい
- 周囲との競争や集団生活にストレスを感じる
こうしたお子さまも、通信制であれば自身のペースで学びを進めやすいでしょう。
他の活動と両立しやすい
部活やアルバイト、芸能活動、プロスポーツへの挑戦など、お子さまが何かに打ち込みたいとき、毎日通学が必要な全日制では時間的制約が大きい場合があります。一方、通信制は自宅学習が主体なので、空いた時間を活かして専門の活動や仕事と両立することが可能です。
どの年代からでも高校卒業を目指せる
通信制高校には年齢制限がなく、たとえ中学卒業から数年ブランクがあっても、社会人でも入学が可能です。また、高校中退後に「やはり高卒資格が必要」と思ったときも、編入という形で学習を再開できる柔軟性があります。
場合によっては専門スキルも学べる
私立の通信制高校の中には、調理や福祉、ITなど専門講座を設置するところもあります。勉強と並行して資格取得を目指すことができるため、お子さまの興味や将来の希望が明確なら、専門コースを選ぶのも選択肢のひとつです。
通信制高校のデメリット・注意点
自己管理が求められる
通学頻度が少なく自主学習が多いぶん、どうしても自己管理能力が必要となります。レポート提出期限を守らないと単位が取れず卒業が延びるケースも。「学校へ行かなくても大丈夫」という自由度の裏側で、モチベーション維持が大変な面があります。保護者の方やサポート校がフォローしてあげると安心です。
人間関係・コミュニティが限定的
毎日学校へ通う全日制に比べると、クラスメートや先生とのふれあいが少なく、友人を作る機会も限られます。学校によってはイベントやクラブ活動がある程度充実しているところもありますが、全日制ほどの多彩な学校行事は期待できないかもしれません。「高校生活での青春」や「部活で仲間と切磋琢磨」などを望む場合には物足りない可能性があります。
進学指導や受験対策は自分次第
通信制高校は基礎的な学習に重点をおくため、大学受験で必要な高度な対策は学校任せにしにくい傾向があります。もちろん進学コースを設けている通信制もありますが、全日制高校のような受験対策授業が十分でない場合も多いです。志望校があるお子さまは、塾や予備校などを併用するなど、本人の主体性が求められます。
世間の偏見が残る場合も
通信制高校に対する世間の理解は広がりつつあるものの、「不登校だったのでは?」「勉強が苦手な子が行くところ」という先入観を持つ人もまだ存在します。しかし、通信制高校も公的に認められた高等学校である以上、全日制と同じ「高卒資格」を取得できますし、進学・就職でも不利にならないのが実情です。
通信制高校に通うのはどんな人?(通信制を選ぶ主な理由)
高校卒業資格を再取得・初取得したい人
一度高校を中退した方、あるいは中学卒業後に進学せず社会人になった方が、「やはり高卒資格が欲しい」と感じて通信制高校に入学するケースは多いです。前籍校で取得していた単位を引き継げる場合もあるため、スムーズに卒業を目指せる可能性があります。
不登校経験・人間関係の不安がある人
お子さまが中学で不登校となってしまった場合でも、「少しずつ登校日数を増やして社会性を身につけたい」といったニーズに応えられるのが通信制の良いところです。最初は自宅で学習し、慣れてきたらスクーリングやイベントに参加して学校生活を経験していくスタイルなど、負担を軽減しつつ高校卒業資格を目指せます。
夢ややりたいことと両立したい人
芸能活動やスポーツ、アートやプログラミングなど、全日制だと時間が確保しづらい分野に打ち込みたいお子さまが通信制を選ぶことは少なくありません。通信制なら登校日を最小限に抑えつつ、自宅での勉強以外の時間を丸ごと活動に充てられます。
通信制高校にかかる学費・経済的負担
公立通信制高校の学費
公立通信制高校は非常に学費が安く、1単位あたり数百円の授業料が基本です。たとえば都立通信制の場合は、1単位あたり数百円程度と設定されており、3年間で卒業できれば数万円~十数万円程度の負担で済みます。
また、世帯収入に応じて国の就学支援金制度が適用されれば、実質的に授業料負担がほぼゼロになる場合もあるため、経済的負担を抑えたいご家庭には公立通信制は魅力的な選択肢です。
私立通信制高校の学費
私立通信制高校は授業料が高めですが、カリキュラムやサポート体制に特色があり、専門コースや週5日通学コースなど多彩な選択肢を提供しています。
- 年間で20万~30万円程度の学費が目安
- スクーリング会場への交通費や宿泊費が必要な場合もある
- コース内容によっては施設費や教材費が別途かかる
ただし、私立でも国の就学支援金が受けられるため、実際の自己負担額は少なくなる可能性があります。
奨学金・支援制度
- 就学支援金制度…通信制にも適用され、収入要件を満たすと学費の一部または全額が国から支給
- 学校独自の奨学金…私立通信制高校によっては特待生制度などで授業料を減免
- 教育ローン…銀行や公的機関の教育ローンを利用し、毎月分割で支払う選択肢も
経済面で心配がある場合は、複数の学校に問い合わせて具体的な支援制度を確認してみましょう。
通信制高校への入学方法・時期
新入学のタイミング
多くの通信制高校では、**年2回(4月と10月)**の入学時期を設定しています。4月入学が一般的ですが、一部の広域通信制や私立校では随時入学を受付けているところもあります。中学卒業後の春に入学できなかった場合でも、秋入学という選択肢があります。
入学試験の内容
書類選考と面接のみで合否を判定する通信制高校が多く、学力試験を課さないケースが一般的です。公立通信制でも筆記試験を実施する場合がありますが、全日制ほどの競争試験ではなく、学習意欲や高校生活への適応力を確認する程度の試験・面接が中心です。
転入・編入のしくみ
既に他の高校に在籍している場合は「転入」、過去に高校を中退した方などは「編入」として途中から入学が可能です。転入や編入でも、前籍校で取得した単位を引き継げることが多く、修業期間を短縮できる利点があります。
入学手続きに必要な書類
- 願書・調査書(中学で作成したもの/在籍校の成績証明書 など)
- 面接票
- 住民票や健康診断書(学校による)
最近はオンライン出願に対応している私立通信制高校も増えています。まずは学校説明会や資料請求をして、必要書類や具体的な手続きスケジュールを確認しましょう。
通信制高校で卒業するための要件
在籍期間と修業年限
全日制・定時制と同じく、3年以上の在籍が高等学校卒業の大前提です。通信制の場合、3年で卒業することも、4~5年以上かけて少しずつ単位を積み上げることもできます。お子さまのペースや状況に合わせて、無理なく継続できる点が魅力といえます。
必要単位数の取得
卒業には、一般的に74単位以上の修得が必要です(必履修科目を含む)。レポート提出・スクーリング参加・テスト合格のすべてをクリアすることで1科目(数単位)ずつ認定され、最終的に必要単位を満たすと卒業証書が授与されます。
特別活動への参加
高校卒業資格を得るためには、授業以外に「特別活動」として設定される学校行事やホームルームなどの参加が不可欠です。通信制高校の場合は活動量が比較的少なく、スクーリングの合間にHRを行うなどしてクリアする方式が多いです。
レポート・スクーリング・試験のすべてをこなす
通信制高校では、
- レポートの提出
- スクーリングでの面接指導
- 単位認定試験
のいずれも単位取得に欠かせないプロセスです。計画的にこなし、わからないところは先生やサポートスタッフに相談することで、着実に卒業へ近づけます。
通信制高校を卒業した後の進路
大学・短大・専門学校への進学
通信制高校を卒業すると、全日制と同じ「高等学校卒業資格」として扱われるため、大学・短大・専門学校の受験資格を得られます。「通信制だから不利」という制度上の縛りはありません。
ただし受験対策は個人任せの面があるため、進学希望の場合は塾や予備校に通ったり、進学コースを持つ通信制高校を選んだりといった追加工夫が求められます。
就職・資格取得
就職活動でも「高卒」として扱われるので、中卒や高卒認定資格よりは応募できる求人の幅が広がります。通信制高校によっては在学中に資格講座を受講できるところもあり、高校卒業と同時に実務系の資格を取得して就職する生徒もいます。
通信制高校卒業生の進路例
- 大学進学: 看護大学や美術大学、一般教養系の国公立大に合格する例も
- 専門学校: 調理・介護・ITなど即戦力を学び、さらに就職へ
- 就職: 高卒採用枠を利用して企業に就職し、勤務を続けながら通信制大学へ進学する人も
お子さまが将来をどう考えているかを踏まえ、通信制高校選びの段階からサポート体制や進学実績に注目しておくと安心です。
通信制高校に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 通信制高校の卒業資格は全日制と同じですか?
A: はい、全日制や定時制と同じ「高等学校卒業資格」を取得できます。履歴書にも「高等学校卒業」と記載できるため、進学や就職で不利になることは基本的にありません。
Q2. 通信制高校とサポート校の違いは何ですか?
A: 通信制高校は国が定める教育課程を持つ「高等学校」ですが、サポート校は学習塾や予備校に近い存在で、卒業資格そのものは付与されません。通信制高校での勉強を続けるための個別指導や生活面のサポートを行うのがサポート校です。
Q3. 通信制高校と高卒認定(旧大検)の違いは?
A: 高卒認定試験は「高校卒業と同程度の学力」を証明する資格であり、合格しても最終学歴は“中卒”扱いです。一方、通信制高校を卒業すれば正式に「高卒」の学歴を得られるので、受験や就職での選択肢がより広がります。
Q4. 通信制高校から大学進学するとき、ハンデはありますか?
A: 制度上の不利はありませんが、受験勉強を個人で進める必要が大きい点は留意しましょう。難関大学を目指す場合は塾や予備校、あるいは進学コースを持つ通信制高校を併用するなどの工夫が必要です。
まとめ
通信制高校は、お子さまの状況や個性に合わせて自由度の高い学び方を提供する選択肢です。全日制に比べて自己管理が求められる一方で、通学頻度や学習スタイルを柔軟に選べるため、体調面や人間関係の不安、専門的な活動との両立など、さまざまなニーズに応えることができます。
保護者の方としては、学校ごとに異なる特色やサポート体制を十分に調べ、できればオープンキャンパスや説明会にも参加してみるとよいでしょう。お子さまが無理なく高校卒業を目指せるよう、通信制高校も含めた選択肢を検討してみてはいかがでしょうか。